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【特別寄稿】“インテリアの力”で、人を健康に

2020.01.27

一般社団法人日本インテリア健康学協会(JIHSA)
(株)菜インテリアスタイリング 代表 尾田 恵

「光過敏」との出会い

 インテリアが人を健康に導く可能性を感じたのは、一人のお客様からのあるリクエストがきっかけだ。「天井に一切照明を付けず、間接照明とフロアスタンドだけで照明計画をしてほしい」。そのような要望は、住環境へのLED普及が進んでおらず、間接照明を取り入れる住宅も少なかった時代にはかなり異例だった。
 数年後、ある医師との出会いで片頭痛症状の一つである「光過敏」の存在を知り、目からうろこが落ちた。お客様が望んだ“まぶしくない照明”の本当の意味に、初めて合点がいったのだ。
 光過敏とは、頭痛発作時に太陽や室内の照明などの光をまぶしく感じる症状のことで、明るすぎる照明環境や白っぽい光、光源が直接目に入ることによって刺激を受け、光が誘因となって頭痛発作を起こすこともある※⑴。片頭痛は20~40代女性の約15~20%、男性の約4倍の有病率と言われている※⑵。頭痛症状には個人差があるが、患者の多くは日常生活や社会生活に支障をきたしている。現場での不思議な要望に隠された悩みの本質への気づきが、インテリアと医療を研究・実証する「Active Care」(アクティブ・ケア)の活動、2018年日本インテリア健康学協会設立へとつながった。

インテリア健康学「Active Care」(アクティブ・ケア)とは?

 Active Care(アクティブ・ケア)とは、人が過ごすインテリア(=生活環境)を整えることでストレスや刺激を軽減し、人を健康へと導く、健康管理の新しい考え方である。これまで心身の健康に重要なのは、食生活や睡眠、運動など“生活習慣”の改善、心のケアだと考えられてきた。「医療×インテリア」の視点から生まれたアクティブ・ケアでは、日々の暮らしの中で大きな影響力をもつ“生活環境”に着目し、独自のインテリア・メソッドを使って、“カラダ”と“ココロ”をセルフケアできる空間の創造を目指している。
 アクティブ・ケアの原点は、人の健康を第一に考えた空間づくりだ。医療とインテリアを組み合わせた視点からさまざまな生活環境を見直し、照明や建材、カーテン、色彩、家具計画に至るまで、人を健康に導く環境づくりのためのデザイン計画を行う。
 片頭痛や睡眠不足、うつ病、薬だけでは治らない原因不明の不定愁訴が増える現代において、アクティブ・ケアは自分自身で健康を守り、さまざまな症状と上手に向き合う、前向きで積極性のある健康管理の手法として、大きな可能性を秘めている。

実例1 読書と光環境

 戸建モデルハウス(大阪府枚方市)の寝室で、照明光源の違いによる影響について調査を実施した。有機EL照明(OLED)とLED照明を読書灯としてベッドヘッドに2灯配置、50名の被験者(片頭痛患者19名、健常者31名)に読書(視作業)をしてもらった※⑶結果、有機ELはLEDと比べ、視作業時の目の負担を軽減するのに望ましい照明光源であることがわかった。これは空間輝度測定(L-CEPT法)を用いた実験※⑷でも立証されている通り、眩しさやギラつきを軽減した面発光である有機ELならではの特性が、「夜間の読書」シーンで活かされた結果だと考える。
 光源の選択肢がある今、健康のために照明をどう使いこなすかは、住宅における光環境を考える上でも重要だ。

実例2 働き方改革とインテリアの役割

 働き方改革によって様々な変革が求められる今、社員が多くの時間を過ごす“職場環境”も「健康ファースト」の配慮が欠かせない。
 女性のスタッフが多い複合福祉施設(東京都大田区)では、光過敏配慮の観点から休憩室のリニューアルを計画した。日中の光環境は睡眠や体内時計の調整に重要だ。新空間には調色調光ペンダントや有機EL照明を、内装はアクティブ・ケア仕様でまとめ、心身ともにリフレッシュできる優しい空間とした。改装前と比べ利用率が格段に高まり、利用者の方からも好評のお言葉をいただいている。

Before:サンタフェガーデンヒルズ スタッフ休憩室

After:調色調光可能な「アクティブケア・ライティング」(大光電機社製)

休憩室カウンターに、読書灯として有機EL照明(OLED/カネカ社製)を設置

予防ヘルスケアへの貢献

 「アクティブ・ケア」は生活環境の側面から疾病の緩和、未病対策など、予防ヘルスケアへの貢献を目指している。
 人生100年時代に向け、病気になってから健康の大切さを知るのではなく、予防ヘルスケアの一つの方法として生活環境を上手に整え、健康をセルフプロデュースできる新しい文化の醸成・定着への貢献こそ「インテリア」の新たな役割ではないだろうか。

「Health for Smile」健康はみんなの笑顔のために

 魅せるインテリアから、人を健康に導くためのインテリアへ。生活環境が担う役割の変化とともに、インテリアの可能性は益々広がると考えている。

【ホームページ】
(一社) 日本インテリア健康学協会(JIHSA) http://jihsa.jp/
(株)菜インテリアスタイリング http://sai-interior.co.jp/

【引用文献】
※⑴ Kelman L. The triggers or precipitants of the acute migraine attack. Cephalalgia 2007; 27: 394-402
※⑵ Sakai F and Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: national wide survey. Cephalalgia 1997; 17: 15-22
※⑶ 2018年度第51回照明学会全国大会 「片頭痛患者における有機EL寝室照明環境の検討」~照明デザインから視作業へのアプローチ
※⑷ 次世代化学材料評価技術研究組合(CEREBA)NEDO事業「次世代材料評価基盤技術開発」研究報告

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